Home  // . //  知見/レポート //  メガバンクが捉えるべき3つの好機

日本のメガバンクは近年、急激な市場の変動に見舞われており、マーケット・コレクションにより過去2年間の株価改善が部分的に相殺されています。2022年以降の株価の改善の主な要因が、現在解消されつつある経済状況であったことを踏まえると、ある程度の調整は避けられません。しかし、機会はまだ失われていません。経済の追い風によって生み出された収益は大きく、メガバンクはこの強みを活かして、永続的な収益力と、世界の投資家にとって魅力的なケースを構築することができます。

図表 1:新型コロナ禍後の投資家センチメント(心理)と銀行株価
2020 年 2 月以降の変動率(%)
Notes: 1. 現地通貨建て株価を使用し、一部銀行の 2020 年 2 月以降の平均変動率から算出しています。 2. 三菱 UFJ フィナンシャル・グループ(MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)、みずほフィナンシャルグループ(MHFG) 3. JP モルガン・チェース(JPM)、バンク・オブ・アメリカ(BAC)、シティグループ(C)、カナダロイヤル銀行(RBC)。 4. サンタンデール(SAN)、BNP パリバ(BNP)、ドイツ銀行(DB)、バークレイズ(BARC)。

「メガバンクの奇跡」に対する投資家の懐疑的な見方は、いまなお消えておらず、それは直近の株価の急激な下落に裏付けられています。市場において最も楽観的な場合でも、メガバンクの株価は北米の同業他社に対して大幅なディスカウント水準で取引されています。世界の投資家は、株式の再評価に値する構造変化の証拠を求めています。

図表 2:ROTCE および P/TBV
Notes: 1. 2023 年 3 月期は、2022 年 4 月 ~ 2023 年 3 月までの期間を対象とします。 2. 2023 事業年度は、2023 年 1 月 ~ 2023 年 12 月までの期間を対象とします。 3. 2026 年 3 月期(コンセンサス予想)は、2025 年 4 月 ~ 2026 年 3 月までの期間を対象とします。 4. 2025 事業年度(コンセンサス予想)は、2025 年 1 月 ~ 2025 年 12 月までの期間を対象とします。 5. 三菱 UFJ フィナンシャル・グループ(MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)、みずほフィナンシャルグループ(MHFG)。 6. JP モルガン・チェース(JPM)、バンク・オブ・アメリカ(BAC)、シティグループ(C)。 7. サンタンデール(SAN)、BNP パリバ(BNP)、ドイツ銀行(DB)、バークレイズ(BARC)、香港上海銀行(HSBC)。

世界の投資家は、より多くの構造変化の証拠をみなくては株価を再評価しないでしょう。日本のメガバンクは、自己資本を最適化してきた欧米の同業他社の経験から学ぶことができます。それらの銀行は、高いバリュエーションを得る活動に基づくビジネスモデルや、投資家向けの明確なナラティブ(物語)を構築してきました。メガバンクがたどる道筋はそれぞれ異なると思われますが、戦略面のプレイブックは同じはずです。日本のメガバンクは以下の 3 分野で行動を起こすことが期待されています。

日本のメガバンクが取り組むべき3分野

オペレーティングモデルの複雑さと非効率性の低減

日本のメガバンクの断片化したガバナンスと散漫な法人組織構造により、世界の投資家は分析に苦戦しています。長年にわたり、メガバンクはガバナンスと構造の簡素化の可能性を探ってきました。ある程度までは、これらの構造は日本の法律、規制および事業環境の特徴と言えます。ところが、足元の経済の追い風によって、メガバンクがこの複雑性を除去し、長期的により高いリターンを実現できることを投資家に確信させる機会が与えられています。投資家は、成果(収益性やリターンなど)を今後も重視するとはいえ、複雑さの軽減、リスク統制、効率改善を実現するために、オペレーティングモデルをどのように進化させていくかをはっきりと説明できれば、道筋を示せるでしょう。

投資家に評価される事業活動について信頼できる戦略を構築する

投資家は、持続的な経済の追い風に支えらえた収益性の高い安定した事業(ウェルスマネジメント、トランザクションバンキングなど)を評価する傾向があります。日本国内におけるウェルスマネジメントと資産運用を巡る機会はこの状況に合致しますが、その可能性を最大限に引き出すためにビジネスモデルを進化させる必要があります。米国のウェルスマネジメ

ント業界で生じた最近の変革は、日本のメガバンク向けの戦略上のプレイブックとなり、約 150% の PBR 改善が可能であると当社は考えています。

グローバルな舞台での国内の規模の活用

日本のメガバンクは、国内の営業基盤の強み(粘着性のある顧客預金、柔軟性の高い資本基盤など)などを原動力に、日本国外でシェアを獲得して魅力的なリターンを創出できる有利な状況にあります。しかし、成功する経済モデルを構築するには、国際的なオペレーティングモデルとインフラを深く統合し、焦点を絞り込んだ戦略が求められます。戦略の執行が成功すれば、PBR を約 115%4 改善できる余地があると考えています。国内の複雑な銀行モデルを再現してしまうと、海外でのメガバンクのつかの間の優位性を損なうことになるでしょう。

潜在的な危機を回避するため、メガバンクには迅速な行動が必要

この局面を十分に活用できなければ、メガバンクはバリュートラップから抜け出せない可能性があります。足元の軌道において、アナリストの現在のコンセンサス予想は、日本のメガバンクが北米の同業他社に比べて大幅なディスカウントでの推移が続き、東証が設定した PBR 1 倍の目標を引き続き下回ると見ています。

より大きなリスクは、国内外での国際的な競合他社との競争です。日本の国内市場(そして近年日本のメガバンクが市場シェアを拡大してきた海外市場の多く)は、国際展開する競合他社には一段と魅力的に映っています。バリュートラップを解消する絶好の機会は間もなく終わる可能性があるため、日本のメガバンクにとって時間がもっとも重要です。